

パーキンソン病の幻覚・妄想症状には注意が必要!原因や治療法についてもご紹介

「パーキンソン病には、幻覚・妄想の症状があるの?」
「幻覚・妄想の症状が出る原因は?」
「パーキンソン病の幻覚・妄想の症状とどう関わればよい?」
このように、パーキンソン病の幻覚(幻視)や妄想の症状に不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、パーキンソン病で幻覚・妄想が起きる原因や、症状を緩和するための治療法、介護者に求められる対応などを解説しています。
目次
パーキンソン病の症状には「幻覚(幻視)」「妄想」がある

「幻覚(幻視)」や「妄想」は、いずれもパーキンソン病の精神症状として知られ、約3~6割の患者が幻覚・妄想を経験しています。
「そこに誰かいるよ」—そんな言葉に戸惑ったことはありますか?
「昨日の夜、そこに子どもがいたの」
「そこに猫がいるのに見えないの?」
そんなふうに、事実とは異なることを話す大切な人に、どう返せばいいのか分からず困った経験はありませんか?
怒っているわけでも、嘘をついているわけでもない。
けれど、自分には見えないものが見えている—その違いに、どう向き合えばいいのでしょうか。
幻覚の多くは、部屋に誰か人がいる、絵や壁の模様が動いて見える、ゴミが虫に見えるなどの症状です。夕方の時間帯や、屋内のあまり明るくない場所で幻覚が見えることが多いとされています。幻覚の種類は幻視がほとんどで、幻聴を訴える人は少数です。
幻視は、本人にとってとてもリアルに感じられるため、周囲の人が驚いたり、どう対応してよいか戸惑ったりすることも少なくありません。しかし、幻視・妄想への適切な対応を知っておくことで、症状の緩和につながるだけでなく、介護する側の心の負担もぐっと軽くなります。
本記事では、パーキンソン病による幻視・妄想への理解を深め、介護者が安心して支えられるためのポイントもご紹介します。
幻覚から妄想へ進行し、悪口が聞こえるなどの症状を訴えるケースがあります。幻覚・妄想の症状を緩和させるために、介護する側も適切な対応が必要です。
出典|参照:パーキンソン病 幻覚・妄想|社会医療法人 全仁会 倉敷平成病院 倉敷ニューロモデュレーションセンター
パーキンソン病で幻覚・妄想の症状が出る原因

パーキンソン病で幻覚もしくは妄想の症状が出る原因として、①パーキンソン病の症状として現れる場合と、②治療薬による副作用の場合があります。
パーキンソン病の症状として現れる場合
幻覚・妄想は、パーキンソン病の進行によって引き起こされる非運動症状です。
・ドパミンの減少
脳内の情報伝達に関わるドパミンが過剰になると、脳の指令がうまく伝わらず、幻視や妄想などが現れやすくなります。
・認知機能の低下
病気の進行によって認知機能が落ちると、現実と幻想の区別がつきにくくなることがあります。
・視覚処理に関わる脳領域の変化
脳の視覚情報の処理に関わる領域に異常が起こり、幻視(実際には存在しないものが見える現象)が生じることがあります。
ドパミンは脳内の情報伝達を担っています。しかしドパミンが減少すると、脳の指令が体にうまく伝わらず、幻覚・妄想といった、見た目ではわかりにくい症状が現れるでしょう。
出典|参照:Movement Disorders Society 「パーキンソン病における幻視および非視覚性幻視の併発」
治療薬による副作用の場合
パーキンソン病の治療薬は、副作用によって幻覚・妄想の症状が出る場合があります。
症状を改善するためにドパミンの補充を行う治療薬として、レボドパやドパミンアゴニストが処方されます。これらは不足したドパミンを補い、パーキンソン病に伴う運動症状を改善するために用いられています。
しかし、上記の服用によってドパミンの上昇が過剰になると、幻覚・妄想といった副作用が現れやすくなるため、注意が必要です。
出典|参照:パーキンソン病の治療|独立行政法人 国立病院機構 宇多野病院 関西脳神経筋センター
出典|参照:パーキンソン病治療薬ドパミン系薬剤の副作用(幻覚・妄想)の治療(4 薬物誘発による幻覚・妄想の治療はどうするのか)|国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
服薬が原因の幻覚・妄想症状の治療法

幻覚・妄想の原因が服薬による副作用の場合は、徐々に薬の種類を減らし、処方を単純化することで経過を見るのが一般的です。服薬調整の例を紹介します。
・服薬内容の見直し
症状が出る直前に始めた薬の中止や、精神症状を起こしやすい薬から順に減量・中止します。
・中止の順序 例(症状によって変わります。)
抗コリン薬 → ドパミン放出促進薬 → MAO-B阻害薬 → ドパミンアゴニスト → 併用剤 → 最終的にレボドパ単剤治療
・補助的な治療
コリンエステラーゼ阻害薬や、短期間の非定型抗精神病薬が有効なことがあります。
薬剤の調整に関しては、自身で判断せずに専門医師に相談した上で調整を行ってください。
出典|参照:パーキンソン病治療薬ドパミン系薬剤の副作用(幻覚・妄想)の治療(4 薬物誘発による幻覚・妄想の治療はどうするのか)|国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
パーキンソン病患者への介護者のかかわり方

幻視は、周囲からは「見えていないもの」でも、患者さんには確かに“見えている”現象です。
最初は戸惑うこともあるでしょう。「あの人がそんなことを言うなんて」と感じてしまうこともあります。それは、その人の人柄をよく知っているからこその戸惑いです。
嘘をつくような人じゃない、しっかりした人なのに——
そう思うのは、深い信頼関係がある証でもあります。
だからこそ、幻視の訴えを否定するのではなくパーキンソン病に伴う「症状」として理解し、一緒に向き合うものとして捉えることが大切です。
また、体調のチェックや環境を整えるなどの対策を講じて、幻視・妄想が起こらないようケアすることも大切です。
幻視の感じ方は人それぞれ
「気味が悪い」「怖い」と感じる場合もあれば、「特に怖くない」「違和感はあるけど、さほど気にならない」という方もいます。
「幻視だから大丈夫」と患者本人が納得できる場合もあれば、「幻視だと分かっていても怖い」と感じる方もいます。
幻視はとてもリアルなので“現実ではない”と疑うことすら難しい場合もあります。
感じ方は人それぞれ、時々で異なります。まずはその理解が大切です。
落ち着いて様子を見守っていきましょう
先述した通り、幻視の原因として考えられる要因は一つではありません。
幻視が見える=認知症になった?と誤解してしまう方もいますが、必ずしもそうではありません。病気の進行や薬の影響で一時的に幻視が見えることもあります。
戸惑いや驚きはあるかもしれませんが、落ち着いて様子を見守っていきましょう。
否定しない

「そんなのいる訳ないでしょ」と否定せず、「どんな風に見えるの?」と寄り添いましょう。
もし「そんなのいる訳ない」と否定されてしまったら、「自分はおかしくなってしまったのか」と心に傷を負うかもしれません。
「こんなこと言ったら、困らせてしまう」と口を閉ざしてしまうかもしれません。幻視が見えるだけでも、たくさんの戸惑い、大きな不安を感じています。共感的な姿勢は患者の安心感につながります。
患者の不安な気持ちをくみとって「怖いね」や「何かあれば対処するから」など、患者が安心してもらえるような声かけをしていきましょう。
幻視そのものへの対処
もしも「布団の上に虫がいる」と言われたら、解決しないと休むことが出来ません。その場合の対応をご紹介します。
触れてみる―
患者が嫌がったり怖がったりしている場合は、代わりに介護者が、その場所を撫でたり払ったりしてみます。
一旦離れる―
例えば掛け布団だったら「外で払ってくる!」と持ち出すのも手段です。
もしくは「追い払うから、リビングで何か飲んでいてくれる?」という提案も一つです。これは気持ちのリセットにもなります。
触れたり、一度視界から遠ざけたりすることで、幻視が消失する場合があります。
他に体調不良がないか確認する
パーキンソン病における幻覚・妄想は、脱水や発熱、便秘などの自律神経障害による体調不良が原因の場合もあります。
パーキンソン病では脳の神経細胞がダメージを受けることから、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、自律神経障害を引き起こしやすくなっているためです。
脱水や発熱、めまいなど体調がよくない時に幻覚が起こることもあるため、体調に異常はないかチェックしましょう。
出典|参照:パーキンソン病とは|社会福祉法人恩賜財団 済生会支部北海道 済生会小樽病院
幻覚が起きにくい環境にする

パーキンソン病患者の周りから幻覚・妄想が起きにくい環境作りをすることも、介護者の重要な役割です。幻覚は暗い場所で見える人が多いため、日光や照明を活用して部屋を明るく保ちます。
また、壁や天井のシミで見間違いを防ぐために、消したり隠したりするのも効果的です。普段から部屋は整理整頓し、見晴らしをよくしておきましょう。見間違い(錯視)を起こすものは、消したり隠したりするのも効果的です。
見間違い(錯視)を起こすものとは、どのようなものがあるでしょうか?
皆さんも“人に見えるもの”にドキッとしたことはありませんか?
カカシやマネキン、掛けてある服など、例えば深夜に突然目の前に表れたら「一瞬、人かと思った」という経験があるかと思います。
ハンガーに掛けて壁などに吊るしたシャツは、人間に見えてしまうことがあります。白いタオルが丸まって置いてあれば、猫などの小動物に見えてしまうことがあります。サラダに掛けたゴマやスパイスなどの黒い粒が、小さな虫の集合体に見えてしまうことがあります。壁や天井などのシミも同様です。
これらの環境はなるべく取り除いておきましょう。
不安な気持ちを抱えたままでは、精神症状が悪化することもあります。
話を聞いてもらえて安堵する方もいれば、幻視が治まれば安堵する方もいます。幻視が起きにくい環境にすることで安堵する方もいます。
その方に必要な「安堵」が積み重なって、最終的に「安心した」と感じていただくこと。それが「介護者の関わり方」では大切です。
また、適切な対応をしていても、それだけでは改善が難しい場合もあります。
不安や恐怖が強いときには、速やかに医療機関に相談をしましょう。
すべてを介護の仕方の問題と考えず、病気による症状であることを理解し、無理をしないことも大切です。
出典|参照:パーキンソン病|社会医療法人 全仁会 倉敷平成病院 倉敷ニューロモデュレーションセンター
パーキンソン病の幻覚・妄想症状には注意しよう

パーキンソン病の幻覚・妄想は、精神症状のひとつです。幻覚・妄想が起こる原因は、病気の進行によるものと、薬の副作用によるものがあります。
幻覚・妄想の原因が治療薬の副作用である場合は、薬の減量や中止によって症状の緩和が期待できる場合があります。パーキンソン病による自律神経障害によって幻覚・妄想が起きている場合も多く、体調不良の症状に注意が必要です。
患者に幻覚・妄想の症状が出ている際は、発言を否定せずに、患者が安心できるよう寄り添った対応を心がけましょう。
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この記事を監修した人
坪井 義夫 先生
医療法人徳隣会 つつみクリニック福岡 パーキンソン病専門外来センター センター長
順天堂大学大学院医学研究科 PD長期観察共同研究講座 特任教授
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