

パーキンソン病で歩行の際に出る3つの症状とは?軽減するために家庭でできることもご紹介

「パーキンソン病では歩行時にどのような症状が現れるのでしょうか?」
「歩行時に気をつけることとは?」
「歩行障害を軽減するために家庭でできることってある?」
パーキンソン病を抱えている人の症状である歩行障害について、このような疑問や興味を持っている人もいるのではないでしょうか。
本記事では、パーキンソン病の歩行障害の軽減や転倒を防止するために、家庭でできることを紹介しています。
この記事を読むことで、パーキンソン病で見られる歩行に関する症状や障害を理解することが可能です。その知識を基に、パーキンソン病で悩む人たちの歩行を適切にサポートすることができます。
目次
パーキンソン病で歩行の際に出る3つの症状

パーキンソン病は様々な症状があり、手足の震えやこわばりなど身体機能に関連した内容も多く見受けられます。このような身体面での症状に影響されて、パーキンソン病の人の歩行には様々な特徴が見られます。
ここからは、パーキンソン病の人が歩行する際に出やすい症状を3つ紹介します。
出典|参照:パーキンソン病の症状について|独立行政法人国立病院機構鳥取医療センター
小刻み歩行
小刻み歩行とは、歩幅が極端に小さくなって小刻みに歩く症状のことを指します。この症状は初期から現れることがあります。
その際にすり足歩行になっていることが多く、腕の振り幅も小さくなるところが特徴です。
小刻み歩行は歩き始めから症状が出やすく、すり足で移動するので小さな段差や物につまずきやすく、転倒するリスクが高くなっています。
出典|参照:東京医科大学 市民公開講座
ここからご説明する症状は、進行期に表れやすい症状です。また、この頃になると姿勢保持障害という症状も現れてきます。“姿勢保持”という言葉にピンとこない方もいるかもしれません。姿勢保持反応とは、転びそうになったときに自然と足や手が出てバランスを取ろうとする反応のことです。
例えば、電車が急に揺れたとき、あなたが立っていたら自然と足を一歩出して倒れないようにしますよね?このとっさの動きが“姿勢保持反応”です。
この姿勢反射に障害がでると、とっさの動きが出来なくなるため、転倒には十分注意が必要になります。
出典|参照:パーキンソン病|兵庫県難病相談センター
突進歩行
突進歩行とは、歩く際にどんどん速足になってしまう症状です。
症状が出るタイミングとしては、歩き出しの最初やある程度距離を歩いた時に多く見受けられます。
この状態を自分で止めることはできず、その多くは狭いところや方向転換する時に見られます。
出典|参照:パーキンソン病患者さまのためのリハビリテーション|国立病院機構兵庫中央病院 リハビリテーション科
出典|参照:パーキンソン病| 慶應義塾大学病院
すくみ足
すくみ足歩行は、歩き出そうとしても足が床に貼りついたように、なかなか一歩が出ない症状です。歩き出す時以外にも、方向転換する時や狭いところを通る時に起きやすい傾向があります。
すくみ足歩行が出ると足をうまく動かせず前に進みにくくなるため、転倒のリスクが高くなります。
出典|参照:パーキンソン病の歩行障害とすくみ足:患者さんが知っておくべきこと|国際パーキンソン病・運動障害協会
出典|参照:パーキンソン病患者さんのすくみ足について|社会医療法人 全仁会 倉敷平成病院
倉敷ニューロモデュレーションセンター
パーキンソン病における歩行障害には2種類ある

パーキンソン病の歩行障害は3つの特徴的な症状がありますが、これは症状が起きるタイミングなどから「持続性のある歩行障害」「突発的な歩行障害」の2つのカテゴリに分類できます。発生するタイミング以外にも、転倒するタイミングなどを予測する参考になるので、カテゴリ分けしておくことが重要です。
ここからは、パーキンソン病の歩行障害を2つのカテゴリに分けて詳しく紹介します。
持続性のある歩行障害
持続して見られる歩行障害は、小刻み歩行です。
歩行中の腕の振りが少なく、場合によっては全く腕を振らずに歩くこともあります。
小刻み歩行はパーキンソン病の特徴的な症状のひとつである「動作緩慢」に関連した歩行の異常で、多くは初期から見られます。
出典|参照:パーキンソン病の歩行障害とすくみ足:患者さんが知っておくべきこと|国際パーキンソン病・運動障害協会
突発的な歩行障害
突発的な歩行障害に該当する症状は、突進歩行とすくみ足です。すくみ足に関しては、パーキンソン病になると必ず出てくる症状というわけではなく、出現しない人もいます。
突進歩行に関しては、症状の出現タイミングが予測できない場合があるので転倒などに注意が必要です。
出典|参照:パーキンソン病の歩行障害とすくみ足:患者さんが知っておくべきこと|国際パーキンソン病・運動障害協会
パーキンソン病の歩行障害を軽減するためにできること

パーキンソン病の歩行障害による症状は、病気の進行に伴ってどんどん日常生活での動作が難しくなり、介護を必要とするなど不自由になっていきます。
そんなパーキンソン病の歩行障害による症状ですが、意識した行動や歩行練習をすることで予防や改善に役立てることが可能です。
ここからは、パーキンソン病の歩行障害を軽減するためにできることを3つ紹介します。
出典|参照:パーキンソン病Parkinson’s disease|社会医療法人 全仁会 倉敷平成病院倉敷ニューロモデュレーションセンター
十分に歩行の練習をする
パーキンソン病の多くの人は、歩行障害の影響で前かがみの姿勢やすり足・小刻みの歩行がクセになっています。このような状態を修正するためには、十分に歩行練習をして姿勢や歩行の感覚を元に戻していく必要があります。
特に胸を張る・大きく腕を振る・踵から地面に足をつけるなど、大きな動作を意識することが大切です。できる限りゆっくり大きく歩くようにして、動作を大きくすることを意識します。
歩行練習を日常生活の中に取り入れるようにして、毎日継続して実践していくことも重要です。
出典|参照:パーキンソン病の歩行障害とすくみ足:患者さんが知っておくべきこと|国際パーキンソン病・運動障害協会
出典|参照:パーキンソン病への対応 |NCNP病院
歩行することだけに集中する
歩行する時に気を付けるポイントとして、歩行だけに集中することが挙げられます。歩行中に話などをしてどこかに気がそれてしまうと、すくみ足などが出やすくなるので注意が必要です。
また歩行中に突進歩行が出てしまった時、集中できていないと焦って転倒してしまう可能性が高くなります。
このため、歩行している時は歩行と同時に別のタスクを進めないように、歩行だけに集中することが重要です。
様々な感覚を用いた代替手段
パーキンソン病の歩行障害は、視覚・聴覚・触覚といった感覚をうまく活用することで、動き出しや歩行をスムーズにすることができます。
・視覚キュー
床材に等間隔の模様があれば、それを目印として活用できます。目印にできるものがなければ、介助者の足を跨いで貰うことで代用できます。

・聴覚キュー
歩くリズムに合わせて「1・2、1・2」と声をかけることで耳への合図になります。本人が自分で声に出してもよいし、介助者が一定のリズムで声をかけるのも有効です。
また「(動作を)大きく」と声を掛けることも有効です。
介助者が声を掛ける時には、シンプルな声掛けをすることが大切です。パーキンソン病の方は、複雑な声掛けが理解しづらく感じることがあり、その結果として歩行が不安定になることもあります。
分かりやすく、安心できる声掛けが、スムーズな動きにつながることがあります。
・触覚キュー
本人が歩き出す前に「せーの!」と自分の太ももを軽く叩いて合図する。
介助者が「せーの」と声をかけながら肩を軽く叩いて、歩き出しを促す。
このような身体へのやさしい接触刺激は、すくみ足の改善につながることがあります。
・「キュー」とは!?
動き出すため、動作をスムーズにするための合図・目印・手掛かりのことを言います。パーキンソン病の歩行障害では、キューが動作の助けになることがあります。
このため家族や介護職員などサポートしてくれる人の力を借りて、自分に合った声掛けや視覚的な目印を付けてもらうことが効果的です。
出典|参照:パーキンソン病への対応 |NCNP病院
出典|参照:パーキンソン病Parkinson’s disease|社会医療法人 全仁会 倉敷平成病院倉敷ニューロモデュレーションセンター
歩行の症状でケガをする可能性もあるので注意が必要

パーキンソンの歩行障害で注意しておきたいのは、症状が原因でケガをする可能性がある点です。
すり足歩行や小刻み歩行、突進歩行のいずれの歩行障害も、段差や物に引っかかるなどして体のバランスを崩してしまう可能性があります。そして一度体のバランスが崩れると自分で体勢が整えられないため、転倒のリスクが高くなるでしょう。
転倒した際に受け身が取れず、頭や腰、足などを骨折する可能性があります。骨折した後は寝たきり状態になってしまう人がいるほか、転倒に対する恐怖心から姿勢反射障害が悪化するリスクもあるので注意が必要です。
出典|参照:パーキンソン病ってどんな病気?|東京医科大学病院
出典|参照:パーキンソン病に伴う症状(運動症状について) |独立行政法人国立病院機構宇多野病院
歩行障害を緩和するために家庭でできるリハビリをご紹介

パーキンソン病の歩行障害を緩和するリハビリは、病院だけではなく自宅でも実践できる物がいくつかあります。
段差によるステップ練習
パーキンソン病の方は、歩行時に足が出にくくなったり、バランスを崩しやすくなったりすることがあります。
今回は、そうした歩行障害に対して効果的なリハビリ方法をご紹介します。
平行棒があると理想的ですが、ご自宅では階段やステップ台を使っても行えます。

①足を高く上げて、一歩ずつゆっくり行う
・片足ずつ、しっかりと持ち上げて階段やステップ台を上ります。
・その時、体の重心がかかとのあたりにしっかり乗っているかを意識しましょう。
・鏡を使ったり、家族に見てもらうと正しくできているか確認しやすくなります。
②バランスを意識する
・手すりを使っても構いませんが、できるだけ左右に重心を移動させる意識を持って動くようにします。
・「右に乗って、左を出す」「左に乗って、右を出す」と声に出してリズムを取るのもおすすめです。
③回数の目安と注意点
・回数は20回〜50回程度を目安に行います。
・回数は本人の疲労に合わせて、できるだけ増やす方が望ましいです。
・疲れすぎる前に休むことも大切です。
・転倒のリスクがあるので、安全に配慮して行いましょう。
普段の歩行も、意識することでリハビリになる
パーキンソン病の方にとって、特別な運動だけでなく、日常の歩行そのものがリハビリになります。ちょっとした意識の持ち方が、歩行の質を大きく変えることがあります。
支援する側が声をかける場合も、できるだけ本人が自分で意識できるよう促すことが大切です。
歩行時に意識するポイント
・視線は少し上に向けるよう意識する(「前を見て」などの声を掛ける)
→足元ばかりを見ると姿勢が前かがみになりやすいため、軽く前方(やや上)を見るようにします。
・「大きく歩く」と意識する(「大きく」と声を掛ける)
→歩幅が小さくなりがちな方には、「大きく」と意識することで歩行が安定しやすくなります。
・かかとから着地するよう意識する(「かかとから」と声を掛ける)
→かかとから着くことで、スムーズな一歩が出やすくなります。
・膝を伸ばすよう意識する(「膝を伸ばして」と声を掛ける)
→歩行時に膝が曲がったままにならないようにします。
・歩くことに集中するよう意識する(周囲も静かにサポート)
→会話などが多いと注意が散りやすいため、歩行中は静かに見守るのが効果的です。
・意識づけや声かけはシンプルに
→指示が多すぎると「すくみ足」が出やすくなるため、短くわかりやすい言葉を使うようにしましょう。
歩くときのちょっとした意識づけが、パーキンソン病の歩行改善に大きな効果をもたらします。
自分で意識することと、必要なときだけ適切に声をかけること、このバランスが大切です。日々の歩行を「移動」ではなく「リハビリの時間」として活用していきましょう。
視覚刺激を活用した歩行練習:ラダーでリズムよく一歩ずつ
パーキンソン病の方は、”視覚的な刺激(目印)”を使うと、歩きやすくなることがあります。
ここでは、床にラインや物を置いて作る「ラダー(はしご状)」を使った簡単な練習法をご紹介します。

①床に目印を作って「ラダー」を用意
・床のタイルやフローリングなど、等間隔の模様があれば、それをそのまま活用できます。
・模様がない場合は、テープや丸めた新聞紙などの棒状のものを使って目印を作ります。
②ラダーの目安(サイズ・間隔)
・前後の間隔(足を出す幅):45〜55cm
・横幅(足を置くスペース):50cm以上
・色は白、赤、緑が視認性が高く、効果的であるという報告があります。
③歩行練習の方法
・ラダーの間に、一歩ずつリズムよく足を出して歩くようにします。
・「1歩、2歩」と声を出しながら歩くとリズムがとりやすくなります。
・必要に応じて、手すりや壁につかまりながら実施します。
注意点
・滑りやすい素材は避けるようにし、テープや棒はしっかり固定しましょう。
・転倒のリスクがあるため、最初は誰かに見守ってもらうのが安心です。
・疲れたときは無理せず、こまめに休憩をとりましょう。
これらのリハビリは場所を取らずに手軽に行いやすいので、実践しやすい方法を取り入れることがおすすめです。
パーキンソン病の歩行における症状には注意が必要

パーキンソン病の歩行障害は転倒などのリスクが高く、症状が進行していけば日常生活に支障をきたしていきます。
転倒などのリスクを軽減するためには正常な歩行の感覚を取り戻す必要があり、日常生活の中でリハビリや歩行練習を取り入れていくことが大切です。
今回紹介した記事を参考に、パーキンソン病の歩行障害を把握したうえで、周囲もサポートをしながらリハビリや歩行練習を実施してみてはいかがでしょうか。
出典|参照:パーキンソン病のリハビリテーション |独立行政法人国立病院機構宇多野病院
出典|参照:パーキンソン病|兵庫県難病相談センター
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この記事を監修した人
坪井 義夫 先生
医療法人徳隣会 つつみクリニック福岡 パーキンソン病専門外来センター センター長
順天堂大学大学院医学研究科 PD長期観察共同研究講座 特任教授
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