

パーキンソン病治療で重宝する「症状日誌」とは?記載の際に参考にするべき重症度も解説

「症状日誌って何かな?」
「なぜ症状を日誌につけるの??」
「どんなことを書いたらいいのかな」
このように、パーキンソン病の治療に使われる「症状日誌」についての質問をいただくことがあります。
本記事では、パーキンソン病の症状日誌について紹介します。
パーキンソン病は、進行に伴ってウェアリングオフ現象やジスキネジアなどの身体症状の変化が1日の中で見られるようになり、このような症状の変化を主治医と限られた受診の中で共有するのは簡単ではありません。
パーキンソン病の治療は、様々な症状の変化を細かく捉えることで、より患者の生活や心身に沿った治療に修正することができると言われています。症状に沿った最適な治療を受けるために、症状日誌を有効活用しましょう。
パーキンソン病における症状日誌の記載方法を知りたい方や、症状日誌の利点や内容を知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
目次
パーキンソン病の「症状日誌」とは

「症状日誌」とは、パーキンソン病の症状を正確に把握するための記録です。
症状日誌を利用すると、体の動かしやすさや動かしにくさが時間ごとに変わっていくパターン(日内変動といいます)が分かり、生活の調整がおこないやすくなります。受診時に、主治医と症状や治療薬の効果を共有する場合にも有効です。
パーキンソン病は症状に合わせた治療を行うことで日常生活がより過ごしやすくなります。症状日誌を活用して、主治医に伝えたいことや相談したいことを受診までに準備し、医師の診察や看護師の療養指導を受けます。
パーキンソン病の症状は多彩で個人差が大きいため、過ごしやすい生活を実現するには、患者自身が症状の変化や治療薬による効果の現れ方を正しく把握している必要があります。
家族や介護サービスの担当者と症状のおきやすい時間や日常生活での困りごとを共有すると、必要な支援が早めに相談できるようになります。
ここでは、症状日誌に記載する内容を具体的に紹介していきます。
症状日誌に記載する内容
症状日誌には睡眠時間や体の動きやすさ、動きにくさ、排せつの状況や服薬時間などを記入します。
血圧や体温を測定した場合は記入し、気になったことはなんでも書いておきます。運動症状(体の動き)だけではなく、非運動症状(不眠や便秘、気分の落ち込みなど)も日常生活に影響するため記載します。
体が動きやすいかどうかやジスキネジアと呼ばれる症状が現れた際は、辛さを記載します。(ジスキネジアとは、パーキンソン病治療のためにドーパミン製剤を長期間服用した場合に現れる、手足や肩など、体が意図せず動いてしまう症状です。)
出典|参照:重篤副作用疾患別対応マニュアル|厚生労働省

パーキンソン病の症状や生活の中で困っていることを記載する

日々発生するパーキンソン病の症状や、日常生活での困りごとを詳しく記載することで、投薬量の変更による症状の変化が分かりやすくなるだけではなく、医師へ伝え忘れることもなくなります。
特に受診前の3日間を書いておくと、受診の際に相談しやすくなります。
たとえば、パーキンソン病の症状により入浴や食事、立ち上がりなどの生活動作が難しかった日に、どのような症状でこまったのかを記載します。
毎日に限らず、困った日に書く、あるいは、次回受診日の1週間前から、日常生活の変化や体の動きやすさ・動きづらさなどを記載しましょう。
症状日誌記載の際はパーキンソン病の重症度も参考にしよう

パーキンソン病は、病状が進行していくと少しずつ症状が重くなっていく病気です。病状の重症度を示す判定には「ホーン・ヤールの重症度分類」が用いられています。
ホーン・ヤールの重症度分類を参考にしながら、症状日誌を記載することで、医師に重症度が伝わりやすくなるでしょう。
ここからは、ホーン・ヤールの重症度分類について詳しく紹介します。また、症状日誌に記載した方がよい内容についても言及しているため、参考にしてください。
出典|参照:6 パーキンソン病|厚生労働省
Ⅰ度では症状が体の片側に現れる
Ⅰ度の段階では、体への障害はあまりなく、あった場合でも軽いことが多いでしょう。
体の片側だけに、何もしていない時に手足が震える「安静時振戦」や、「筋肉のこわばり」といった症状が現れます。安静時振戦はじっとしていると症状が出ますが、何かしようと動けば症状が消えることが多いでしょう。
上記のことから、重症度分類がⅠ度であれば日常生活に支障はないといわれているため、仕事や社会生活を継続している方も多くいます。
症状日誌を記載する際は、疲労の度合いや振戦の有無、気持ちの浮き沈みなど精神面の変化などを記載していきましょう。
出典|参照:6 パーキンソン病|厚生労働省
Ⅱ度では症状が体の両側に現れる
段階がⅡ度に上がると、日常生活を送ることが少し困難になります。
Ⅰ度の頃には体の片側にしか現れていなかったパーキンソン病の症状が、体の両側に現れるようになるためです。
じっとしている時に震えてしまう安静時振戦が、両手両足に見られるようになります。動作がゆっくりになったり、歩幅が小さくなったりする「無動」や「動作緩慢」といった症状も、両側に現れるようになります。しかし、介助は必要ないでしょう。
症状日誌には、Ⅰ度で紹介したような記載内容に加え、日常生活で困っていることがある場合は、そこも含めて記載するようにしましょう。
出典|参照:6 パーキンソン病|厚生労働省
Ⅲ度では姿勢が悪くなり活動がやや制限される
重症度がⅢ度になると「姿勢反射障害」の症状が現れ、日常生活に支障が出てくるでしょう。
姿勢反射障害とは、パーキンソン病の患者が立っている際にバランスを取ることができず、転倒しやすくなる症状です。例えば、歩き出したら自力で止まることができずに突進してしまったり、倒されたり体勢が崩れた際に自力で踏ん張り体勢を整えたりすることができなくなります。
日常生活が制限されるようになりますが、まだ介助は必要ではないでしょう。パーキンソン病の患者の職種や仕事内容によっては、働き続けることも可能といわれています。
このように、Ⅲ度ではパーキンソン病による症状が顕著に表れやすくなります。
症状日誌には姿勢反射障害による転倒の有無や、薬を服用する前と後の状態の変化、薬の効き目が弱くなった際に発現する症状や症状の強弱(ウェアリングオフ)についても意識して記載するようにしましょう。
ウェアリングオフ現象とは、パーキンソン病の進行によって神経細胞が失われることで、治療薬を投与しても薬効成分をため込むことができなくなり、薬効の持続時間が徐々に短くなってしまうことです。
出典|参照:6 パーキンソン病|厚生労働省
出典|参照:パーキンソン病について|慶應義塾大学病院パーキンソン病センター
Ⅳ度では介助が必要になる
重症度がⅣ度までになると、日常生活に支障をきたし、介助を必要とする場面が出てきます。
自力で立ち上がったり、歩いたりすることはできますが、難しさがあります。これは筋強剛(筋固縮)や安静時振戦、無動や寡動、姿勢反射障害などの運動障害が進行するためです。
運動症状が現れても、「L-ドパ」という治療薬を使って治療は可能です。しかし、進行度に関わらず薬の使用を開始すると「ウェアリングオフ現象」や「ジスキネジア」といった症状が現れるようになるでしょう。
この段階の症状日誌には、Ⅲ度の時と同様の内容に加え、新たな症状や変化について書くとよいでしょう。
出典|参照:6 パーキンソン病|厚生労働省
出典|参照:パーキンソン病について|慶應義塾大学病院パーキンソン病センター
Ⅴ度では1人で起きたり歩いたりできなくなる
重症度がⅤ度まで進行すると、自力では歩けず車椅子歩行になり、ベッドで寝て過ごす時間も増えるでしょう。日常生活では全面的に介助が必要です。
パーキンソン病の末期症状には、咽頭部の筋肉の動きが制限されることで起こる「嚥下障害」や「構音障害」などがあります。幻覚や妄想といった「精神症状」の他、「認知機能の低下」や「自律神経障害」なども起こるでしょう。
出典|参照:パーキンソン病について|慶應義塾大学病院パーキンソン病センター
適切な治療のための症状日誌

症状日誌を記載することで、いつどのようなタイミングで症状が現れているのか、内服をしてどのくらいで効果があらわれるのかを把握できます。
その日の薬の効果や症状の軽い時間なども分かりやすくなるため、症状の軽い時間のうちに用事を済ませたり、リハビリを受けたり、趣味の時間を持つなどの生活上の工夫が可能になります。
本記事で紹介した記載内容や見本を参考に、日々の症状を記載した症状日記を主治医や家族、サービス担当者など周囲にいる支援者と共有し、快適な時間を過ごしてください。
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この記事を監修した人
坪井 義夫 先生
医療法人徳隣会 つつみクリニック福岡 パーキンソン病専門外来センター センター長
順天堂大学大学院医学研究科 PD長期観察共同研究講座 特任教授
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