パーキンソン病で嚥下障害が起こる原因は?食事の工夫と対策を解説
「食事中にむせることが増えた」
「飲み込むのに時間がかかるようになった」
パーキンソン病の患者さまやご家族の中には、このような変化を感じている方もいるのではないでしょうか。
パーキンソン病では嚥下(えんげ)障害、つまり「飲み込みにくさ」が早い段階から起こりやすく、ご本人が自覚するより先に、ご家族が気づくことも少なくありません。嚥下障害は、誤嚥性(ごえんせい)肺炎などのリスクがある一方で、薬の調整や食事の工夫など、日常生活でできる対策もあります。
この記事では、パーキンソン病で嚥下障害が起こる理由と、留意しておきたい嚥下障害のサイン、そしてご家庭で取り組める対策を解説します。
目次
パーキンソン病と嚥下障害
嚥下障害とは、食べ物や飲み物、唾液を口から胃まで安全に送り込む一連の動きが、うまくいかなくなる状態です。パーキンソン病の患者さまは、早期から嚥下障害が起こりやすいとされています。飲食がうまくいかずに生活の質に影響するだけでなく、誤嚥性肺炎のリスクにもつながるため、十分な配慮が必要な状態です。
ここでは、嚥下(飲み込み)の仕組みと、パーキンソン病で嚥下障害が起こりやすい理由を見ていきましょう。
嚥下(飲み込み)の仕組みとは
嚥下とは、食べ物や飲み物を口から胃へ運ぶ一連の動作のことで、大きく3相に分かれます。

<嚥下の段階>
- ・口腔相:口の中で食べ物を咀嚼し、食塊(しょっかい)としてまとめて喉へ送る
- ・咽頭相:ごくんと飲み込んで喉(咽頭)から食道へ送る
- ・食道相:食道の動きによって胃まで運ぶ
これらの段階は、ごく短い時間のうちに、筋肉と神経の連携によって進んでいくため、ほぼ無意識に行うことができます。しかし、どこかひとつでも動きが滞ると、むせる、食べ物が喉に残る、食べ物や唾液が気管に入り込む(誤嚥)といったことが起こってしまうのです。
なぜパーキンソン病で嚥下障害が起こりやすいか
パーキンソン病では口腔相・咽頭相・食道相のいずれにも障害が起こりえますが、特に口腔相と咽頭相に影響が出やすいとされています。
パーキンソン病患者は、口腔相での噛む動きや、舌で食塊をまとめて送り込む動きが遅く、不十分になりがちです。舌の筋肉がこわばると、食塊を喉の奥へ送りにくくなり、舌が前後に繰り返し動くため、飲み込むまでに時間がかかります。
咽頭相には、飲食物が入ってきたときに喉頭蓋が動いて気管に入らないようにする機能が備わっています。しかし、筋肉のこわばりによってこのタイミングが遅れると、飲食物が気管に入ってしまう場合があり、これを誤嚥といいます。
通常は、むせて吐き出す反射が起こりますが、パーキンソン病によってむせる反射が出にくくなる点にも注意が必要です。
また、食道相では飲食物を飲み下す蠕動(ぜんどう)運動が低下すると、逆流やつかえ感が現れることもあります。
さらに、パーキンソン病の治療を続ける中では、レボドパ(L-ドパ製剤)などの薬が効いている時間帯(オン)と、効き目が切れて動きにくくなる時間帯(オフ)がはっきり現れる、ウェアリング・オフ現象がみられることがあります。このオン・オフの波も、飲み込みやすさを左右する要因のひとつです。
そのほか、パーキンソン病の症状である口の乾燥やジスキネジア(自分の意思とは関係なく身体が動いてしまう症状)、うつや認知機能の変化、前屈位・首下がりといった姿勢の異常も、食べることや飲み込むことに影響します。原因はひとつではないため、身体の状態を幅広く把握することが大切です。
ウェアリング・オフ現象については、こちらの記事をご覧ください。
ウェアリング・オフ現象はどんなもの?症状と原因、対処法を解説
パーキンソン病でみられる嚥下障害のサインとリスク
パーキンソン病でみられる嚥下障害は、現れる時期や進み方に個人差があります。早期の段階からみられることもあるため、常に留意しておきたい症状です。
ここからは、日常生活で嚥下障害に気づくためのサインと、嚥下障害によって生じるリスクを解説します。
嚥下障害のサインは食事どきに出やすい
嚥下障害のサインは、食事の場面で最も現れやすいといえます。むせや咳が増える、食事に時間がかかる、痰が増えるといった変化は、代表的なサインです。
<嚥下障害を疑うサインの例>
- ・サラサラした液体を飲むとむせてしまう
- ・食べ物、水分ともに飲み込むまでに時間がかかる
- ・食事中に声がガラガラになる
- ・食後の痰が増える
- ・食事をするだけでも疲れてしまう(食べること自体に疲労を感じやすくなる)
- ・食べ物の味や匂いを感じにくくなる
- ・喉のつかえ感や、口・喉に食べ物が残る感じを訴える
- ・よだれが増える
- ・体重が減ってきた
パーキンソン病によって舌の動きが悪くなると、食塊が喉の奥から手前に戻りやすく、飲み込みに時間がかかることが増えます。ただし、この段階で嚥下障害を自覚する方は多くありません。ご本人よりも、食事を一緒にとるご家族が先に変化に気づくことも多いため、周囲の目も大切な手がかりになるでしょう。
嚥下障害による誤嚥性肺炎やフレイルなどのリスク
嚥下障害は、誤嚥性肺炎やフレイルなどのリスク要因になりえます。「パーキンソン病診療ガイドライン2018」によると、嚥下障害は誤嚥性肺炎を招きやすく、誤嚥性肺炎はパーキンソン病患者の死因の24〜40%を占めるとされています。
誤嚥性肺炎に関して特に注意したいのが、不顕性(ふけんせい)誤嚥です。通常の誤嚥はむせを伴いますが、パーキンソン病ではむせて吐き出す反射が低下しやすいため、誤嚥していてもむせないケースがあります。こうして起こるのが不顕性誤嚥で、外部からわかりにくいのが特徴です。
なお、不顕性誤嚥の15%は口にたまった唾液によって起こるとされており、食事どきや就寝中に唾液が口にたまっていないかよく観察することも大切です。
また、嚥下障害によって「飲み込みの低下により食べることに時間がかかって疲れ、食事を諦めてしまう→十分な栄養がとれない→筋肉が衰える→さらに食べることが負担になる」という悪循環が起こることもあります。食事量が減れば、栄養不足や体重の減少を招き、フレイル(心身の活力が低下した状態)につながるおそれもあるでしょう。
飲み込む力が弱まる弊害として、大きな塊を一度に飲み下せずに窒息のリスクが高まることも挙げられます。そのほか、薬が喉に残りやすくなり、内服薬が十分に吸収されずに症状が急に悪化することもあります。
気になる変化があれば早めに主治医へ相談し、必要に応じて嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)などを受けることを検討しましょう。
日常生活でできる対策

「パーキンソン病診療ガイドライン2018 」では、嚥下障害への対応として次の3つが示されています。
<パーキンソン病診療ガイドラインで示されている嚥下障害への対応>
- ・レボドパ(L-ドパ製剤)などの薬物の適正化(ウェアリング・オフ現象がある場合は、食事の時間帯がオンになるよう服薬を調整する)
- ・食形態・姿勢の調整と嚥下機能訓練
- ・誤嚥性肺炎のリスクが高く、十分な食事がとれない場合の胃ろう造設や声門閉鎖術などの検討
いずれも、自己判断で食事を極端に制限したり服薬を変えたりせず、主治医・言語聴覚士・管理栄養士と相談しながら対応することが大切です。
ここでは、日常生活で取り組みやすい対策を中心に紹介します。
薬物調整と食事のタイミング

嚥下障害への対策では、パーキンソン病の治療薬が重要です。レボドパをはじめとする薬を調整し、咀嚼や嚥下に関わる筋強剛(筋固縮)・振戦(ふるえ)・ジスキネジアをやわらげることで、飲み込みやすさの改善が期待できます。
ウェアリング・オフ現象がみられる場合は、食事の時間帯がオンになるよう服薬のタイミングを調整します。その際は、「どの時間帯にむせやすいか」「食事に何分かかっているか」といった具体的な様子を主治医に伝えると、調整の手がかりになるでしょう。
内服そのものが難しい場合には、貼付剤など別の投与方法が検討されることもあります。薬が喉に残っていないかにも注意し、咽頭残留が多いとわかった場合は、食事中や食後に水分を何回かに分けてとるなど、検査結果に応じた工夫を取り入れることが重要です。
食事の形態と姿勢・環境の工夫
食事の形態を見直すことは、家庭でも取り組みやすい対策のひとつです。ミキサー食やきざみ食に変更する、水分にとろみを付ける、一口の量を小さくするといった工夫によって、飲み込みの負担を軽くできます。硬いもの、粉っぽいもの、パサつくもの、粘りが強すぎるものは飲み込みにくさを強めることがあるため、状態に応じて見直しましょう。
食べるときの姿勢と環境も、飲み込みやすさに影響します。食事中はできるだけ安定した座位をとり、あごを軽く引いて、よく噛んでゆっくり飲み込むようにします。横になったままの食事は避け、テレビを消すなどして、食事に集中できる静かな環境を整えることも効果的です。
むせたり詰まったりしたときにどのような対応が必要か、ご家族や介護者のあいだであらかじめ共有しておくと安心です。強いむせや呼吸の苦しさが続くときは、ためらわずに救急を受診してください。
口腔ケアと嚥下のリハビリ
口の清潔を保つ口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防につながります。口の中の細菌を減らすことで、唾液や食べ物が気管に入ってしまったときの肺炎リスクを下げられます。毎食後の歯みがきや義歯の手入れを、無理のない範囲で習慣にしてください。
リハビリとしての嚥下訓練は、運動低下や廃用の予防も兼ねて行います。言語聴覚士による訓練のほか、唇・舌・頬を動かす口腔体操や発声練習は、飲み込みや発声の維持にも役立ちます。
また、理学療法・作業療法も含めた総合的なリハビリは、姿勢の安定や食事動作のしやすさにもつながるでしょう。
自宅でも口腔体操を続けることが理想ですが、ご本人に拒否感があると習慣を維持しにくいかもしれません。無理なく続けられるよう、専門職の指導や周囲のサポートを活用することが大切です。
口腔体操や誤嚥予防の具体的な方法については、下記の記事も参考にしてください。
パタカラ体操で声と飲み込みを守る|リズムで続けやすい口腔体操
パーキンソン病の口腔体操3選|誤嚥予防と発声を守るリハビリ習慣
嚥下障害のサインに早めに気づき、リスクを遠ざけよう
パーキンソン病では嚥下障害が起こりやすい一方で、ご本人が自覚しにくいという特徴があります。
誤嚥から誤嚥性肺炎や栄養不足につながるおそれもあるため、むせ、食事時間の延長、声のかすれ、痰の増加、体重の減少といった変化に早めに気づき、主治医や言語聴覚士に相談することが大切です。
薬や食事の調整、食事中の姿勢の工夫、口腔ケアと嚥下訓練を組み合わせることで、誤嚥のリスクを遠ざけられる可能性があります。ただし自己判断で食事や服薬を変えることはせず、専門職と一緒に進めていきましょう。
PDハウスにはパーキンソン病専門スタッフが在籍しており、医師と連携しながら、嚥下障害に伴う食事の工夫や日常生活のサポートが可能です。資料請求やご見学は、こちらからお気軽にお問い合わせください。
参考:
パーキンソン病の嚥下について|坪井義夫のパーキンソン病ノート(PDハウスオンライン)
パーキンソン病診療ガイドライン2018(日本神経学会)
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この記事を監修した人
坪井 義夫 先生
医療法人徳隣会 つつみクリニック福岡 パーキンソン病専門外来センター センター長
順天堂大学大学院医学研究科 特任教授
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